「大阪維新」プログラム(案)と2008年度本格予算編成にあたっての申し入れ

大阪府知事  橋下 徹 様

2008年6月20日   

日本共産党大阪府議会議員団  
団 長   宮 原  威  

1.「大阪維新」プログラム(案)は府民参加でくらし応援と財政再建を両立させる方向で抜本的見直しを

(1)「大阪維新」プログラム(案)の抜本的見直しを求める

@大阪府は、府民の暮らしを守り、福祉を増進するという立場を明確にする

 大阪府は、府民の暮らしを守り、福祉を増進するという立場を明確にするとともに、セーフティーネットの充実、文化、環境、産業振興などで、広域的役割を果たさなくてはならない。私学助成や福祉4医療は、現行でも全国的にすすんでいるとは言えない。後退などは論外である。

 また、「ミュージアム構想」を主張しながら、ワッハ上方や青少年会館、国際児童文学館の廃止・縮小、大阪センチュリー交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団などへの補助金削減を提案している。一部の地域・建築物のライトアップをしても大阪の文化的地位は向上しない。

 大阪の諸文化の蓄積は、府民の共同と大阪府の支援でつくりあげてきたものであり、大阪府の関与は、むしろ拡大する方向で検討する。

A真に「将来世代に負担を先送りしない」ために、財政再建を計画的にすすめる

 国の三位一体改革による大阪府の税財源圧迫は、544億円にのぼる(03年度と07年度の差)。その上、今年度から265億円の税収が国に移された。

 この800億円を超す税財源圧迫をやめさせることが緊急に求められており、大阪府、府議会ぐるみで、国に意見を言い、税財源措置を求めるべきである。

 “府民への少しずつの我慢”のお願い、“税金を1円たりともムダにしない”としているが、大型開発については、一部延期しただけで基本的に見直しされていない。

 これでは“大きなムダづかい”は継続することになってしまう。

 今後も継続予定の大型開発、例えば安威川ダム、箕面森町、阪神高速大和川線、新名神連絡道などは、中止・見直しをはかる。

 過去のムダづかい、とりわけ1992〜98年の間に国の景気対策に追随し、4兆1714億円の建設事業が行われ、2兆2462億円も府債が増えたが、それは30年間で返すものであり、その負の遺産の処理は2020年代半ばにまで及ぶ。その計画的な償還計画をつくるべきである。

 公債費の管理は適切に行い、建設事業の落札差金や水道部の黒字の一部などは、減債基金への返済に当てる。退職手当債のさらなる活用を図り、福祉・教育などの今年度の財源をいっそう確保する。

 国直轄事業の府への負担押しつけは今年度だけでも400億円に上る。ただちに国に説明を求め、透明化と中止・見直しを求める。

 同和事業は見直しではなく、来年度から完全終結する。

B府民福祉の充実、大阪産業の振興策をつくる

 大阪の現状について、貧困と格差が全国のなかでも深刻な大阪の分析と大阪府が果たすべき広域的役割についての言及がないのは決定的弱点である。「低下し続ける相対的地位」、「止まらない経済中枢機能の流出」、「大阪府や府内自治体の財政危機」などをあげているが、これらは首都圏以外で共通する現象であり、文字通り国政との関連も含め、分析されるべきことである。

 税金の使い方、予算編成、市町村や民間の関係、大阪府の役割に立ち返って“自治体革命”を起こすというが、その内容として、「自己責任と互助」「大阪府解消と道州制」がいわれているが、これは、自民、公明政権の住民福祉切り捨ての自治体リストラそのものであり、同意できない。

 また、中小企業振興、雇用確保、大企業との共存策など、大阪経済の振興策がほとんどない。ベイエリア開発や彩都を中心としたバイオ構想も本当に大阪府民の暮らし、雇用、産業発展にどう役立つか、検討されていない。府民福祉の充実、大阪産業の振興策を早急にとりまとめることが必要である。

(2)府民の府政への参加を強める

@現在実施されているパブリックコメントは、今後の府政運営と予算編成に生かす。また、パブリックコメントは、施策の変更が可能な時点で実施し、その内容を府政運営に生かす。

A暮らし、雇用、安全、教育、大阪産業、大阪文化の現状などを広く府民に周知し、全ての施策について、公聴会の実施、関係者との粘り強い話し合いなど、府民参加を強める。

B“破産状態”などと決めつけず、今後の財政収支の見通し(粗い試算)や、8年後から財政健全化団体になるなどの財政状況を府民に客観的に知らせる。

2.2008年度本格予算編成に当たって

(1)従来どおり予算化すべき事業(主な例・来年度削減予定の事業を含む)

 財政再建は、福祉・医療・教育・文化・安全施策の充実のためにすすめるべきで、財政再建のために後退させるのは本末転倒である。

 特に以下に○印を付す事業は、削減・廃止の対象になっているが、逆に継続・充実させるべきである。△印は削減・廃止の対象ではないが、充実・発展させるべき事業である。

 なお、本書は08年度本格予算を中心にまとめたため、09年度からの削減対象事業で、削減してはならない大事な事業であっても、記載していないものがある。09年度から廃止・削減となる事業については、後日、見解を発表する。

総務部

○市町村振興補助金、市町村施設整備資金貸付金
 *市町村と十分な協議を行い、市町村にとってより有意義な制度となるよう再構築する。

○消防支援費(消防協会補助金)

△地震対策は、中央防災会議の想定に沿って府の計画を見直し、「大阪府住宅・建築物耐震10カ年戦略プラン」を前倒しで実施する。

生活文化部

○私学助成(経常費助成・授業料助成・幼稚園振興助成)
 *私学は大阪の教育システムの中で大きな位置を占め、かけがえのない役割を果たしている。削減は私学の教育条件の悪化、学費値上げをもたらし、私学に通う児童・生徒の教育を受ける権利を奪う。削減すべきではない。

○大阪府育英会貸付金
 *日本育英会が高校奨学金を廃止したもとで、大阪府育英会は教育の機会均等を保障する貴重な役割を果たしてきた。貸付対象者を狭める制度変更は止めるべきである。

○大阪府立大学運営費交付金
 *交付金の削減は府立大学の役割を後退させ、入学金、授業料の値上げをもたらし、府民の負担を増やすものである。交付金削減はすべきではない。

○文化予算全般
 *大阪府の文化予算は、これまで、削減に次ぐ削減が強行されてきた。これ以上の削減は許されない。

○青少年関係予算
 *大阪の未来のために欠かせない予算であり、削減すべきでない。

健康福祉部

《障がい者施策》

 障がい者の人権を守り、自立と社会参加を促進する事業は、削減廃止ではなく充実する。

○精神障がい者権利擁護システム
*ボランティアの協力により、わずかの費用で大きな成果を上げてきた事業。廃止は、システムを破壊し、権利擁護を後退させるもので、許されない。

○地域生活支援事業市町村補助金
*移動支援(ガイドヘルパー派遣)や日常生活用具の給付は、障がい者が人間として自立した生活をする上で欠かせない支援。09年度廃止すれば、市町村が負担しない限り、障がい者の負担が増え、社会参加や日常生活が大きく制約される。

○地域移行促進事業など
 *施設入居者が施設から地域生活に移行するのに必要な訓練を行うための人の配置に対する支援。09年度廃止すれば施設の負担が増え、地域移行の円滑な促進はできない。

○企業開拓強化事業、職場実習等強化事業など
 *就労支援事業は、ますます必要性を増す。廃止・再構築ではなく継続する。

○ITステーション運営費、障がい者IT総合推進事業、障がい者テレワーク推進事業
 *廃止せず充実する。

○障がい者福祉・医療・生活相談活動を行っている当事者団体の運営補助金
 *削減は、団体の活動を低下させるもので、府の職員では代替が不可能な事業であり、削減・廃止は認められない。
 (精神障害者家族会連合会、身体障害者福祉協会、聴力障害者協会、視覚障害者協会、精神障害者社会復帰促進協会などの運営補助金)

《高齢者施策》

 高齢者の生きがいを促進し、介護予防を積極的に進める事業は拡充すべきである。

○高齢者の住宅改造事業
 *廃止ではなく継続する。

○街かどデイハウス事業
 *市町村との十分な協議を基に介護保険事業への一部移行を円滑に進め、さらに増やす。

○シニアコミュニティワーカーズ事業、シニアアドバイザー養成講座、大阪府老人クラブ連合会補助など
 *元気な高齢者の社会的活動の場づくりであり、廃止すべきではない。

《医療・看護》

 府民の命と健康を守るための次の施策は後退させない。

○福祉4医療費助成制度
 *この制度は、社会的弱者にとっては文字通り命綱である。改悪は府の自治体としての役割放棄につながる。特に乳幼児医療制度は全国最低レベルであり、これ以上の改悪は絶対にやってはならない。

○がん診療連携病院事業、がん医療充実強化事業
 *大阪府はがん死亡率ワースト3(06年)である。がん医療対策は後退ではなく、前進が求められている。

○女性医師確保総合対策事業
 *廃止せず促進する。医師確保総合対策事業を速やかに実施する。

○訪問看護利用料助成事業
*事業は社会的弱者の医療費負担を軽減するもので、制度の趣旨に背く再構築は許されない。

○大阪府立病院機構運営負担金・病院事業費(負担金)
 *医師・看護師など医療スタッフ確保や医療機器の更新に影響を及ぼしかねず、削減すべきではない。

○小児救急医確保支援事業・小児救急広域連携促進事業
 *小児救急医療体制整備が急がれるなか、削減すべきではない。

○歯科緊急医療体制確保事業
 *年末年始の歯科診療体制を確保する上で、必要な事業であり継続すべきである。


《子育て支援》

○子育て支援保育士事業
 *子育てを励ます事業は、地域で待たれている事業であり、廃止ではなく充実する。

○放課後児童健全育成事業費補助金
 *学童保育指導員に対する年2回の大阪府研修が果たす役割は大きく、廃止すべきではない。

《地域福祉》

○小地域ネットワーク活動推進補助金
*小学校区毎に、コミュニティー活動を推進し、地域力の向上に役立っていた施策であり、地域住民の連帯強化を支援するために継続するべき。

○「コミュニティーソーシャルワーク機能」配置促進事業補助金、高齢者医療・健康・福祉サービス機能等支援事業
 *地域における総合的なセーフティーネット必要不可欠な施策で廃止すべきではない。

《その他》

○生活保護受給者自立支援事業
*生活保護世帯一時金支給の廃止と引き替えに始めた事業であるが、社会的弱者に対する施策を後退させてはならない。廃止ではなく拡充すべきもの。

商工労働部

○商店街等いきいき元気づくり事業・商店街等活性化事業等
 *貴重な商店街支援策であり、予算削減ではなく、拡充が求められている。

○ものづくり基盤技術高度化支援事業・クリエイション・コア東大阪関連予算
 *中小業者の意欲を引き出し、技術の向上・販路開拓・後継者育成のための施策であり、後退ではなく、予算の拡充こそ求められている。

○小規模事業経営支援事業費補助金
 *商工会議所・商工会等関係機関と十分協議・調整の上、小規模事業所への有効な経営支援となるよう、事業の改善を図り、雇用破壊とならないよう適切に対応すること。

○雇用対策
 *若者を使い捨てにする「登録型日雇い派遣」など、劣悪な雇用状況にある若年者の雇用実態調査をおこなうとともに、府として適切な対応を図る。また、若年者正規雇用対策やニート対策、障害者及び高齢者雇用などは、予算削減ではなく、施策を改善・拡充する。

環境農林水産部

○森林放置対策事業
 *貴重な緑と自然の保全と災害防止のため、対策の強化・充実は不可欠である。

○農作物鳥獣被害防止対策事業
 *近年被害が拡大しており対策強化が必要である。

○ヒートアイランド対策導入促進事業、中小事業者省エネルギー等促進事業
 *全国一暑い街大阪の環境改善対策は府の政策誘導が必要である。

○アスベスト飛散防止対策等推進事業
 *府民の健康・安全を守るため規制基準の遵守を指導し飛散防止に努めることは必要である。

△「大阪府都市農業の推進及び農空間の保全と活用に関する条例」の関連施策のいっそうの充実をめざし、農業関係者などの要望を施策に反映させる。

都市整備部

○急傾斜地や地すべり対策、河川の時間雨量50ミリ対策、堤防補強など災害対策
 *一律カットの対象にせず、対策を積極的に推進する。

○生活関連道路にかかる維持補修・改善予算は削減しない。

住宅まちづくり部

○密集住宅市街地整備促進補助金
 *密集対策は地震対策として急務の課題である。縮減ではなく、拡充する。

教育委員会

 大阪の教育が長年にわたって積み上げてきた、いじめ・不登校対策、特別支援教育などの施策を、「財政再建」を理由に縮減・廃止することは、大阪の教育と未来に取り返しのつかない重大な支障をもたらす。
 よって、以下の項目をはじめとする諸施策は、縮減・廃止ではなく、継続・拡充の方向へ再検討する。

○教育専門員

○時間講師、府立学校教務事務補助員等

○夜間中学校就学援助・給食費補助

○教職員旅費

○学校安全総合支援事業〈政令市をのぞく府内公立小学校等への警備員配置〉

○いじめ対策事業

○障がいのある児童生徒への教育支援事業

○高等学校における発達障がいのある生徒への支援研究事業

△継続が決まった35人学級は拡大をめざす。

公安委員会

○警察専門嘱託員の削減はやめる。

(2)役割を後退させてはならない公の施設および出資法人(主な例)

○上方演芸資料館(ワッハ上方)
 *全国で唯一の笑いの資料館。資料やライブラリーは発祥地ミナミにあってこそ継承・発展ができる。ホールの利用率も高く、大阪らしい文化・観光施設として残すべき。

○女性総合センター(ドーンセンター)・男女共同参画推進財団
 *ドーンセンターの共同施設化と財団運営補助廃止は、推進財団の役割と存在を否定し、男女共同参画社会実現に逆行する。施設の位置づけと補助金は継続すべきである。

○大阪府文化振興財団(大阪センチュリー交響楽団)運営補助
 *小学生を招く「タッチ・ジ・オーケストラ」をはじめ、旺盛に演奏活動を展開している。補助金削減を止め、府としてもさらに育成すべきである。

○青少年会館、総合青少年野外活動センター等
 *会館は大阪中のブラスバンドの大会が毎年開かれるなど、音楽、演劇、美術アートなどの分野で若者に練習と発表の場を与え、育成してきた貴重な施設。また、野外活動センター等は、青少年が自然に親しむ貴重な施設である。廃止ではなく、存続・発展すべきである。

○国際児童文学館(施設・法人)
 *世界的にも貴重な児童文学の研究施設であり、施設も法人も存続が必要である。

○門真スポーツセンター
 *引き続き大阪府スポーツ・教育振興財団に管理を委ね、「民間のみの運営者への移行」はしない。

○大阪府スポーツ・教育振興財団
 *学校給食の安全・安定および門真スポーツセンターの管理運営という役割は重要であり、これまでの位置づけと補助は継続する。

○臨海スポーツセンター
 *フィギュアスケートの世界では国際的な役割を果たしている貴重な施設であり、現行の運営形態を堅持する。

○府立体育会館
 *アマチュアスポーツの殿堂としての役割を堅持する。

○大阪国際平和センター(ピースおおさか)
 *特別展・企画事業の予算が全面的に削減されているが、特別展・企画事業を行わないことは、センターの値打ちを引き下げることになる。削減は止める。

(3)抜本的に見直すべき大型プロジェクトと同和対策

○阪神高速道路大和川線、淀川左岸線等
 *(独)日本高速道路保有・債務返済機構に対する出資はやめる。

○府道大和川線
 *阪神高速大和川線の府道区間については、阪神高速道路事業に戻すことを求める。

○新名神高速道路の連絡道路整備
 *国に採算性の見極めと自然環境の保全を求め、アクセス道路整備の府負担は止める。

○安威川ダム・槇尾川ダム
 *本体事業は延期でなく中止する。

○大戸川ダム・丹生ダム
 *説明が不十分で役割があいまいな国のダム建設計画に、協力しない。

○箕面森町第3区域
 *自然と財政を破壊する開発計画は廃止する。残土受入れを名目とした開発着手は認めない。

○彩都開発支援事業
 *今後の支援事業は廃止する。

○堺浜に進出したシャープ及び関連企業に対する補助金
 *補助金はすでに4社244億円と巨額に達している。これ以上の補助金については慎重に対応する。決定済みの補助金についても、府負担の軽減、正規雇用の十分な確保はじめ地域経済へのいっそうの貢献を企業に要望・協議する。
  なお、1地域150億円という新たな枠組みも、大企業向けの巨額支援であり、抜本的に見直す。

○関西国際空港ゲートウェイ機能強化促進事業(府負担金2億4600万円)は廃止する。

○人権協会補助金は今年8月から廃止し、府職員を引き揚げる。

○人権相談事業は、他部局の3相談事業とともに廃止する。

○地域人権金融公社への無利子貸付金は、同和対策がただちに終結すべであることに鑑み、無利子貸付という特別扱いを止め、早期返還を求める。

(4)人件費削減について

@勤務条件を改善し、職員の英知と創意をくみ上げることこそ、府庁改革の原点。全国 的にも低い水準にある職員の賃金を大幅に下げることは、人材確保にも支障が生じる。労働条件の変更は労使合意が基本である。

A賃金職員(教務事務補助員など)や外郭団体職員の雇用を守り、解雇や雇い止めはしない。

B嘱託員や賃金職員などの報酬削減はしない。

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